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故郷とともに生きる・・・愛媛県吉田町でみかんを育てる奥谷篤巳さんの物語!

愛媛県宇和島市吉田町奥南。ここは、国立公園の一角を担う宇和海を見下ろす小さな集落で、みかん栽培が代々続く緑豊かな土地です。この地でみかん農家を営む奥谷篤巳さんは、一度故郷を離れたものの、その魅力に引き寄せられるように戻ってきました。彼の人生と、みかん農家としての暮らしには、地方で生きるヒントが詰まっているに違いありません。


幼い頃からみかんとともに

奥谷さんは吉田町で生まれ育ちました。「小さい頃からみかん畑は生活の一部だった」と笑う奥谷さんにとって、祖父母や両親がみかんの収穫や手入れをしている姿は、幼い頃からごく日常的なものでした。

「ただ、当時は『家業を継ぐ』なんてまったく考えていませんでした。むしろ都会に憧れていて、高校卒業後は迷わず関西の専門学校に進みましたね。」

その後、大阪での仕事を経て、奥谷さんはさらに東京へと移り住みます。都会での刺激的な日々は楽しかったものの、3年が経過した頃から次第に、ふるさとの風景が恋しくなっていったそうです。

「忙しい毎日でふとした瞬間、吉田の穏やかな山と海が頭をよぎっていたんです。地元に帰るたび、空気の匂いや人の温かさがどれだけ特別かを感じるようになりました。」

写っているのは取材に同行した筆者の娘(3歳)ですが、まるでジャングルにいるよう。幼少期の奥谷さんの瞳には雄大なみかん山はどのように映っていたのでしょうか。か

帰郷の決断と、本気になれた理由

30代半ば、ご両親から「そろそろ戻らないか」と声がかかり、東京での暮らしにも一つの区切りを感じていた奥谷さんは、思い切って帰郷することを決めたのです。

「最初は正直、不安でした。都会の便利さに慣れていた自分がいて、『田舎でやっていけるのか』って。でも、実際に戻ってみると、心がスッと軽くなるのを感じました。家業の手伝いも、嫌いではありませんでしたね。」

とはいえ、地元に帰ってまず最初に驚いたことは、収穫して出荷するだけではない、みかん農家の仕事の多様さでした。春には剪定や施肥、夏には病害虫対策、秋から冬にかけては収穫と出荷が最盛期となります。どれも重要で繊細な作業です。

「休みはあんまりないです。」

と苦笑いする奥谷さん。実は、みかん農家の仕事が本当に「好き」になったのは、戻った直後ではなく、割と最近であるとのこと…。

「結婚して、子どもが生まれて…人生のステージが進むにつれて『この仕事に本気で向き合わなきゃ』っていう気持ちが強くなりました。そうすると自然と仕事が楽しくなってきたんです。」

農家という仕事が家族の暮らしを支えている…そう実感することで、みかん畑でのひとつひとつの作業が誇らしく思えるようになったそうです。

奥南の空と人を愛して

奥谷さんに、奥南の好きなところを尋ねると、少し照れながらこう答えてくれました。

「ここは山が低くて海が近いんです。空が広くて開放感があるんだけど、同時に大自然に包み込まれている感じもするんですよね。こういう場所って、全国探してもそんなに多くないんじゃないかな。」

なるほど確かに、青空の下、山中から足元の海を見下ろせる景色は珍しいかもしれません。
また、奥南の魅力として観光地らしさがない点を挙げてくれました。

「ここは、いわゆる観光地じゃないんですよ。でも、それが良いんです。地元の人が日常的に暮らしている空気感をそのまま感じられる。自分も旅行に行くなら、そういう場所を選びたいですからね。」

そんな地域の魅力を、自分の子どもたちにも知ってほしいと。

「吉田町には自然が豊かで、季節ごとの行事も多い。この地域ならではの経験を通して、子供たちが豊かな感性を育んでくれたらと思っています。」

一方で、親としては彼らに自由に羽ばたいでほしい思いも…。

「広い世界へ出ていって、いろんな知識や経験を積んでほしいと思っています。でも、その中でふるさとの良さに気づいてくれたら嬉しいですね。もし帰ってきて、一緒にこの土地で働き、暮らしてくれたら、本当に最高です。」

そう語りながら、目を細める奥谷さん。口角も上がっています。

みかん山からの景色。自然に囲まれており、かつ開放的な、贅沢な環境。

みかん農家としての自由

奥谷さんの一日は忙しく、しかし、その中には「自由」があるといいます。

「正直、ちょっと寝坊したり、少し長めに休憩を取っても、誰にも怒られない。もちろん、そのぶん自分で責任を持たなきゃいけないけど、この自由さが農家の仕事の魅力の一つですね。」

仕事をしながら大好きな空を見上げたり、時には手を止めて海を眺めたりできる環境。都会では味わえない贅沢がここにはあります。

大好きな仕事場(みかん山)に向かう奥谷さん。

地域おこしの担い手としても

本業はみかん農家ですが、奥谷さんにはNPO法人奥南でざいんセンターの代表者というもう一つの顔があります。

知人が管理していた空き家を、地域のみかん農家どうしが集まって語り合える『たまり場』として改装しスタートした、凪ハウス。現在では、県内外から旅人が尋ねてくる、地域唯一の宿泊施設でもあります。

管理を請け負ったものの、しばらく手付かずであった古民家は、想像以上に損傷していました。
このまま持ち主に返そうか?時間とお金をかけて修繕するべきか?大いに悩んだ結果、クラウドファンディングで資金を調達し、現在のように快適に寝泊まりできる安らぎの空間が生まれたのです。

もともと、宿泊施設の運営にも興味があった奥谷さん。宿泊者全体の3割を占める釣り人、柑橘関係者以外や県外からの旅人など、これまで出会う機会がなかった人々との交流も楽しんでいる。

凪ハウスのリビング。とても広い。

凪ハウスのキッチン。皆で思い思いに料理を作り振る舞い合う。

キッチンの一角。売り物でもサービス品でもなく、自然と物々交換が行われいつも充実のラインナップ。

故郷に根を張る生き方

インタビューの最後、奥谷さんに「都会から地方への移住を考えている人へのメッセージ」を尋ねました。

「まずは一度来てみてほしいです。吉田町には、自然だけじゃなく、人の温かさや食べ物の美味しさなど、たくさんの魅力があります。それを肌で感じることが大事だと思います。」

さらに、こう続けてくれました。

「都会と地方、どちらが良い悪いではありません。でも、自分自身がどんな生活を送りたいかを考えると、地方での暮らしに光が見える人もいるはず。吉田町がその選択肢の一つになれば嬉しいですね。」

青々とした山と、きらめく宇和海。その間に広がるみかん畑で生きる奥谷さんの姿は、地方の暮らしの豊かさを静かに、しかし力強く語っています。

故郷の海と空、みかん山そして子供達の未来に思いを馳せ、笑顔の奥谷さん。

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