モノにモノガタリを。地域の記憶の居場所。
長い片付けが終わり、がらんとした静けさを取り戻した、宇和島の古い倉庫。 この場所は、たくさんの「モノガタリ」を待っている、美しい木の床が広がる空間でした。
そして迎えた、あの日。 わたしたちの「Fab Shed」が、本当の意味で一歩を踏み出した日。
集まってくれた仲間たちと、この場所に最初の「舞台」をつくる、「床張り」のプロジェクトが始まりました。
未来図を描く、静かな「墨出し」
倉庫に集まったわたしたちが最初に行ったのは、「墨出し」という作業。 それは、これから張っていく床の「設計図」を、原寸大で引いていく、静かで、けれど最も重要な時間です。
まっすぐに引かれた一本の線。 長年、この倉庫の歴史を支えてきた古い木の板の上に、わたしたちの未来の「基準」となる線が引かれていきます。
古い記憶の上に、新しい物語の設計図が描かれる。 ピンと張り詰めた糸が「パンッ」と鳴る音が、この場所の過去と未来を繋ぐ合図のように響いていました。
響き渡る、創造の「産声」
設計図が描かれたなら、あとは、形にするだけ。
倉庫に運び込まれたのは、22枚の「構造用合板」。 一枚一枚が、ずっしりと重い。それは、これからここで生まれるであろう、たくさんの夢と活動の重さを、古い床と“一緒に”支えていくための、頼もしい重さでした。
「始めよう」
その声を合図に、倉庫の静寂は破られました。 鳴り響く、いくつものインパクトドライバーの甲高い音。
『ウィィィン、ガガガッ!』
それは、 この倉庫が、新たな歴史を刻み始める「創造の産声」のようでした。
墨出しの線に合わせて合板を置き、膝をつき、夢中になってビスを打っていく。 新しい木が、古い木へと。 木と木が、人と人とが、確かな手応えで繋がっていく。 ビスが一本、また一本と打ち込まれるたびに、この場所が「わたしたちの場所」になっていくのを、肌で感じていました。
舞台は、できた。
22枚の合板がすべて張り終え、鳴り止まないインパクトドライバーの音が静かになった頃。 わたしたちの目の前には、真新しい木の舞台が広がっていました。
おそるおそる、その上に立ってみる。 自分の足音が、さっきまでの古い床板の軋む音とは違う、新しく、そして確かな響きで返ってくる。
「ひとまず、床ができたね」
まだ、壁も、道具も、何もないけれど。 わたしたちが立ち、集い、語り合い、そして生み出していくための「舞台」が、この倉庫の記憶の上に、確かに重なったのです。
Fab Shedの物語は、この日、この床の上から、確かな一歩を踏み出しました。
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