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訳ありの美味しさ ~里の食を手繰るシリーズ①~

2年前に東京から松野町へ住まいを移してから、日常にいろんな変化がありました。
何が増えたって食べ物を口に入れた時、美味しさにビックリして上を向くことが増えました。

パク カクン
パク カクン

美味しさアッパーカットでパンチドランカーになりかけてきた頃、いつものように宙を見上げて思いました。

「なんでこんなに美味しいんだ…?」

「調べてみよう。(モグモグ)」


気温と作物の蜜月な関係

松野町で食べる物の美味しさを取り上げる上でまず出てくるのが、

『農作物の甘さ』

米は勿論、多くの野菜、果物の『甘味』が確実に強いのです。
甘味、つまり糖。

皆さんご存じ、人は『糖』にめっぽう弱いです。

そのあまりの魅惑さに、戦国時代には政治に利用され、戦後闇市では現在の価格に換算して1キロ8万円というまさに闇価格で取引されていました。

安価に手に入るようになった今でも僕らは『甘味』の虜で、
特に糖度の高いフルーツなど、『自然由来の強い甘さ』には高い価値が付いているのを良く見かけます。

「高級フルーツ 贈答品」で画像検索したら出てきた千葉のメロン。

そんな魅惑成分『糖』が、松野町の農作物に強く出ている。
その秘密の一つは『昼夜の寒暖差』にありました。

いや、実は砂糖水で育てているんです。と言われた方が直観的には「道理で。」と納得できそうなところなんですが。
そこは自然の科学が答えをくれます。

「昼夜の寒暖差が大きい」というのは、「昼間のあったかさに比べて、夜めっちゃ冷える」ということです。
で?なんで甘くなるの?って思いますが、答えは意外とシンプル。

植物はみんな「光合成」と「呼吸」をしています。
思い切って「糖」だけに注目してこの二つを見てみると、

・糖を生み出す(甘くなる)光合成
・糖を消費する(甘くなくなる)呼吸

という風になります。
日の出ている昼間のみに行われる光合成に対して、呼吸は人間同様、昼夜問わず常に行われます。常時、糖は消費しつつ、生産は昼間に一気にしているという感じです。

そして、甘さを決定づける植物の特徴が「呼吸は気温が低いほど減る」ということ。

秘密が見えてきました。

昼間に気温が上がる場所、つまり太陽がサンサンと降り注ぐ環境下では、作物は呼吸で消費する量よりも多くの糖を光合成で生産します。

になるんですね。

そして、日が沈んでその日の糖生産が終了したあと、呼吸のみの糖消費モードに切り替わりますが、気温が低ければ低いほどその消費が緩やかになります。すると、昼間蓄えた糖をあまり使わず、また翌日の生産を迎えることになるわけです。

です。

結果、どんどん甘くなっちゃうわけです。

作物にとって「昼夜の寒暖差が大きい環境」というのは、
糖の消費量<糖の生産量(備蓄量)になりやすい環境というわけです。

農業界隈では昼夜の温度差が「10℃以上」あると、「甘味が強い」と謳う傾向が強くなるそうです。(科学的な根拠は見つからなかったのですが)

松野町は、年間を通じて約10℃の寒暖差が見られたので、まさに「甘い作物が取れる地域」と言っていいと思います。
松野町の年間気温➡https://www.heikin-kion.com/matsunocho/

「特産品=風土の指標」だった

松野町に来てからずっと、みかん県と呼ばれる愛媛なのになんでここは桃を特産品にしてるんだろう?と不思議に思っていたのですが、その理由の一端も昼夜の寒暖差にあったようです。

昼夜の寒暖差が必須の桃。松野の桃はとても甘い。

ちなみに、寒暖差が生むのは甘味だけじゃありません。桃に次ぐ松野町の主要農作物になっている柚子は、寒暖差によってその果皮が「厚くなる」ようになっています。

柚子最大の魅力はその香り。そしてその香り成分のほとんどが、皮に含まれています。昼夜の寒暖差を忍んで分厚く育った松野の柚子は、鼻を近づける前から爽やかに香り立っています。

そんな芳醇な柚子皮を主役に使った漬物も松野町を代表する特産品です。

食べるとバリバリと鳴る『雷漬け』

伝統は地元有志の生産グループによって守られている

火入れの段階で柚子が一気に香り立ちます

そして漬物の相方と言えばやっぱり炊き立てご飯。
そのお米に至っては、粘りを生み出す「デンプン」まで寒暖差によって強まる為、松野のお米は甘くてモチモチ好食感。おのずと嚙む回数も増え、怒涛のアッパーカットに耐えうるアゴに育ちます。


そういえば、昨年「松野のお米ってやたら美味いけど、一体どのくらい美味しいんだろう」と興味を持った役場職員が「食味値」を計測する専用機器で正確に測ったところ、「特A級」を誇る魚沼産コシヒカリを上回る数値を叩き出してしまい、なにより地域の米農家さんがビビるという事件もありました。

報告書の一部を拝借

そんな事実も、その後広く外部へ知れ渡ることも特になく、ただこれまで通り地域の人たちの間で「やあ、美味い」と言いながら食べられているのも、山の中の小さな田舎町らしいです。

この他にも、栗、梅、お茶、トマト等々、松野町の気候を活かした様々な「地のもの」が旬毎に地域に出回ります。

松野は今日も美味しいです。

美味しさの秘密の一つが分かったところで、次回はもう一つの松野の恵み「水」について書いてみます。森、川、そして海へと繋がる話になってきますので、ぜひお楽しみに!


第2弾記事はこちらから⤵

記事リンク
カラフルな巨大ピラミッド ~里の食を手繰るシリーズ②~

こんにちは! 夏真っ盛りですが、みなさん最後に川遊びをしたのはいつでしょう? そしてそれはどんな川だったでしょう。 まだ今のような情報化社会になる前の頃、超一級のポテ…

【参考ページ】
・戦国時代の砂糖事情➡https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_000291.html
・砂糖の価格変動史(砂糖1キロ8万円の時代)➡https://www.kanedaya.biz/2020/03/23/%E7%A0%82%E7%B3%96%E4%BE%A1%E6%A0%BC%E3%81%A9%E3%81%86%E8%A6%8B%E3%82%8B-%E3%81%9D%E3%81%AE%E2%91%A2/
・昼夜の寒暖差と甘味について➡https://senohata831.com/2021/01/02/kandansa/
・昼夜の寒暖差と柚子の皮➡https://yuzu.shizuoka.jp/about#:~:text=%E6%9E%9C%E5%AE%9F%E3%81%8C%E5%AE%9F%E3%82%8B%E6%99%A9%E5%A4%8F%E3%81%8B,%E5%8E%9A%E3%81%8F%E6%88%90%E9%95%B7%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
・昼夜の寒暖差とお米について➡https://fukuinokomeya.com/blog/how-to-choose-a-sweet-rice/


【お断り】
筆者は、農業をはじめその他あらゆる一次産業に関して経験の無い素人です。また、そういった領域の研究者でもありません。
・今回取り上げた農作物を実際に生産している各事業者さん達には、気候条件以外にもそれぞれに創意工夫や秘訣のようなものがあること。
・昼夜の寒暖差が全ての農作物にとって良い効果を与えているわけはないこと。
を承知の上で、一移住者目線で「地域の魅力を分かりやすく感じてもらう」ことを目的にこの記事は書かれています。万が一、内容に問題があると判断された場合にはコメント欄もしくは直接メッセージをお願いします。

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